アガサ・クリスティーといえば、ミステリー。 でも、彼女の好きだった童話に『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』があり、作品の中に、最も多く登場する童話となっています。 知っていましたか? いっけん関係なさそうなアガサ・クリスティーと『アリス』。 でも、調べてみると、彼女が『アリス』愛した理由のなかに、アガサの作品を理解するヒントが 隠れていそうな気がするんです。
アガサ・クリスティーが愛した『アリス』
アガサと『アリス』との関係
まずは、アガサの自伝のなかに、ほんの一行ですが、『アリス』の本について記述があります。自分の子供用の本棚に『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』があったと書かれています。
また、『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』では冒頭の詩が、『鏡の国のアリス』の <白い騎士>が歌う『木戸に座って』のパロデイになっています。
『自伝』には、アガサは、小さいころから本が好きで、自然と字を覚えてしまったと書いてあります。 沢山の本を読んでいたでしょうから、そんな沢山の中から『アリス』をだしてくるあたり、やはり、お気に入りだったと思われます。
アガサ・クリスティーの作品にでてくる『アリス』
作品のなかの『アリス』
アガサの作品に『アリス』からとった言葉や文が登場します。
『七つの時計』 1929年 『鏡の国』の赤の女王みたいに・・・ 『メソポタミアの殺人』 1936年 ”まず最初から始めて・・・” (鏡の国) 『殺人は容易だ』 1938年 ”朝食前の六つのありえないこと・・・(鏡の国) 『スリーピング・マーダー』1940年代(出版は1976年)あだ名はウミガメもどき(不思議の国) 『ねずみとり』 1954年 ”『鏡の国』の赤の女王みたいに・・・ 『クリスマス・プディングの冒険』 1960年 短編「クリスマス・プディングの冒険」”朝食前の 六つのありえないこと・・・(鏡の国) 『蒼ざめた馬』 1961年 ”まず最初から始めて・・・” (鏡の国) 『複数の時計』 1963年 ” 「セイウチと大工」” (鏡の国) 『運命の裏木戸』 1973年 ”朝食前の六つのありえないこと・・・” (鏡の国)
『運命の裏木戸』には、ほかにも、ところどころに『不思議の国のアリス』が登場します。
かなりの作品がありますね。 また、年代をみると、作品を書きつづけていた間ずっと、『アリス』の作品を登場させていたことがわかります。 また、特に『鏡の国』のフレーズがお気に入りだったことも、わかりますね。
アガサ・クリスティーの作品と『アリス』の意外な共通点
共通点を探したら
『アリス』の世界観は、日常がひっくり返る不思議な世界にあります。
アガサの作品にも、日常に突然「殺人」という非日常が入り込みます。
どちらも「現実の裏側に潜む奇妙さ」そして「不条理さ」を描いているのです。
そして最後にアリスは、『不思議の国』では安心できるお姉さんのもとに、『鏡の国』では子猫のいる世界に戻っていきます。 アガサの作品も事件が解決して、登場人物たちが日常の世界に戻っていきます。 そこに読者も安心と喜びを見つけるのです。
アリスとアガサ・クリスティーの作品のヒロインたち
登場人物の魅力
『アリス』の元気で好奇心旺盛な少女像は、まさにアガサの作品に登場する「おきゃんな女の子」そのものです。 アリスは白うさぎを、追いかけて穴のなかに飛び込んでいきます。 アガサの描くおきゃんな女の子たちは、事件のなかに飛び込んでいきます。 まさにアリス!
勇気と知恵で、困難な状況を乗り越えていきます。 そういえば、アガサの好きな言葉に勇気がありました。 アガサ・クリスティーは、内気でも有名だったひとですが、自伝や、関連本などを読むと、なかなかその行動は、活発だったことがわかります。
アガサは、『アリス』の物語そのものや、言葉遊びなども好きだったのでしょうが 物語の主人公アリスもお気に入りだったに違いありません。 アリスのなかに、自分と共通するものをみていたのかも。 それは、読者にとっても、楽しいことですね。
おきゃんな女の子作品 ピックアップ5 おきゃんな女の子作品 ピックアップ5選
1『茶色い服の男』 アガサの作品のなかでおきゃん度NO.1 2『秘密機関』 タペンスがとってもキュート(トミーとタペンス) 3『七つの時計』 レデイなんだけど 4『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』 こちらもレディなんだけど 5『蜘蛛の糸』 戯曲ですが、ヒロインが魅力的
なぜアガサ・クリスティーは、『アリス』を愛したのか
まとめ
アガサが『アリス』を愛したのは、もちろん物語が面白く、数学も好きで、クロスワードパズルなど言葉遊びが好きだったこともあるでしょう。
また、主人公のアリスが、勇気と知恵で困難な状況を乗り越えていくところもお気に入りだったでしょう。
しかし、その中でも特に、論理と不条理が共存する世界にひかれたのではないでしょうか。 それは、『鏡の国』のお気に入りのフレーズを見ても、わかりますね。
また、作品でけでなく、ルイス・キャロルの『アリス』の物語は、児童文学の近代ファンタジーの金字塔を打ち立てた作品(『英米児童文学のベストセラー40』)であり、また、アガサ・クリスティーは、ミステリー黄金時代の先駆けになった作家です。 そんなとことからも、通じるものがありそうです。
自分の好きなアガサ・クリスティーの作品と『アリス』が繋がると ミステリーとしてだけではない違った観点から、作品に出合うことができ 一段と作品と向き合う時間が楽しくなりました。 これからも、機会を見つけ、向き合っていきたいテーマです。
参考文献
『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル 角川文庫 (河合祥一郎訳) 『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル 角川文庫 (河合祥一郎訳) 図説『英国ファンタジーの世界』 奥田 実紀 ふくろうの本 河出書房新社 発見『不思議の国のアリス』鉄とガラスのヴィクトリア時代 寺嶋 さなえ 彩流社 『英米児童文学のベストセラー40』 成瀬 俊一編 ミネルヴァ書房
『アガサ・クリスティー完全攻略』霜月 蒼 早川書房 『アガサ・クリスティーを楽しみ尽くす』平井 香子 大修館書店 『イギリスのお菓子とごちそう』北野 佐久子 二見書房 『アガサ・クリスティー百科事典』数藤康雄編 早川書房
追加 「mr partner」という雑誌 2025年4月号で、アガサ・クリスティーとルイス・キャロルの特集がのっていました。アガサ・クリスティーが影響を受けているといった内容は、ないのですが、二人に興味を持っているにとって、とても嬉しい、楽しい特集でした。
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