アガサ・クリスティーの物語で味わう英国のクリスマス         

テーマ

英国のクリスマスなんて聞くと、ロマンチックな香りが漂ってきますね。               雪の降る夜、暖炉、大きなクリスマスツリー。

 アガサ・クリスティーの作品のなかに、そんな英国のクリスマスの様子がよくわかる楽しい作品があります。                                                            彼女自身『自伝』のなかで、忘れがたい楽しい、最高の思い出として、クリスマスのことを語っています。                                           ケーキやプレゼント、家族が集まる温もり。                                                     その記憶は、彼女の物語のなかにいきいきと描かれています。

                                                               そんな作品のご紹介です。

英国のクリスマスを味わう作品3作品

1 短編集 『クリスマスプディングの冒険』から「クリスマスプディングの冒険」 1960年

     煌めく英国の伝統と、いたずら心

あらすじ

 是非とも事件解決の協力をして欲しいと、ポアロのもとに依頼がきた。                    それを、渋い顔でことわるポアロ。「イギリスの古いカントリーハウス」なんて・・・       けれど、ジャズモンド氏は続ける。「イギリスの田舎の古風なクリスマス」             それこそ、とんでもないと再度断るポアロだが、押し切られる形で、出かけていくと・・・        そこは、まさに英国の伝統的なクリスマス。                          そして、解決すべき事件が、いたずら心から思わぬ方向へ。

おすすめポイント

 アガサ・クリスティーの作品のなかでも、まさにキラ星のような存在。            暖炉、クリスマスツリー、カキのスープに七面鳥、ヤドリ木。                   あちこちに英国伝統のクリスマスの様子がちりばめられていて、とっても,楽しい作品。      アガサ・クリスティーが楽しみながら、書いている姿が目に浮かぶようです。

2 『ベツレヘムの星』1965年 (詩4編と短い物語6編)

      静かな祈りと信仰の心

内容 アガサ・クリスティーのもう一つのクリスマスの物語。                  こちらの作品は、ミステリーでは、ありません。                         『クリスマス・プディングの冒険』が、アガサの大切な思い出から生まれたものなら、この作品は、アガサの内面のクリスマスに対しての思いと、祈りが溢れた作品のように思います。       アガサ・クリスティーは、信心深い人でした。    その心がにじみ出ているように思います。

3 『ポアロのクリスマス』 1936年

      家族の集まりに潜む「邪悪な影」

あらすじ

大富豪のシメオン・リーは、クリスマスを共に過ごすようにと、離れている息子たちを呼び寄せた。                                                             いやいや戻ってくる息子たちのほか、孫娘や親友の息子なども訪れ、屋敷は賑やかになっていく。                                                            しかし、クリスマスが間近かというのに、皆の表情は困惑と、怒りばかり。                                     不穏な空気のなか、恐ろしい殺人事件が起きてしまう。

おすすめポイント

 『ポアロのクリスマス』なんて題になっているので、楽しいクリスマスの情景が現れるのかと思いきや、全然そうではありません。                                             時折、登場人物の口からそれっぽい話があるのと、事件が日付順になっているので、クリスマスの時期なんだなと、わかるくらいです。                                       では、なぜアガサ・クリスティーは、わざわざ『ポアロのクリスマス』としたのか?                          それは、日本のお盆や正月と一緒で、離れている家族が嫌いな父親に呼ばれたとしても、故郷に帰ることに違和感がないからでしょう。もしかして別の時期だったら、「嫌なら帰らなければいいじゃん」になっていたかも。                                               『クリスマス・プディングの冒険』と真逆の感じで、平和と団らんの象徴でもあるクリスマス「偽りの姿」として描いているのがこの作品です。                       アガサが描くもう一つの家族の形のクリスマスストーリーです。

ちょいたし

もうひとつ、クリスマスを冠した短編があります。                                 ミス・マープルものの短編集『火曜クラブ』に入っている「クリスマスの悲劇」です。                       これもクリスマス感はほとんどなく、トリックの関係上、時期の設定がクリスマスということが必要だったということです。                                クリスマスの作品としては、お勧めはあまりできませんが、『火曜クラブ』は面白いので機会があれば、ご覧ください。

アガサ・クリスティーにとってのクリスマス

アガサ・クリスティーにとってクリスマスは、大切で、楽しい思い出になっているようです。                      その思い出は、『クリスマス・プディングの冒険』の”はじめに”のところのみならず、『自伝』にも描かれています。                                                          ただちょっと笑えちゃうのが、クリスマスの思い出が、プレゼントより、食べ物に重きがあることです。                                                      『自伝』によると、当時のアガサはやせっぽっちなのに、いっつもお腹を空かせていたそうです。クリスマスのときは、男の子とどのくらい食べられるかを競ったと、楽しそうに語っています。                         まあ、確かにその食べっぷりは、みごと!                                          生まれ故郷のデヴォンの生クリームが大好きだったというアガサ。                                    実は、すごい食いしん坊(笑)                                                         アガサ全体の作品のなかで、クリスマスのシーズンを扱った作品はすくなかったように思います。                             大切なかけがえのない思い出だけに、なかなかミステリーの舞台として選びにくかったのでしょうか?

まとめ

アガサ・クリスティーの読み方の楽しみはいろいろありますが、このクリスマスに関する読み方も、楽しい読み方の一つです。                                      『ベツレヘムの星』は、信仰のない私には、ちょっとわかりにくい部分や、理解しきれていないところもあります。                                                          それでも、”英国のクリスマス”を感じさせてくれる作品だと思います。                                   特に、最初のごあいさつのところの詩は美しく、楽しくて大好きです。                          「ミステリーの女王アガサ・クリスティー」の別の一面を、見させてもらえたようです。

参考文献

 クリスマスの作品のなかに、英国の伝統的料理や、風習などが描かれています。         馴染みのない料理もあって、どんなものなんだろう?と知りたくなった人におすすめです。

『イギリスのお菓子とごちそう』 北野 佐久子著 二見書房                 『イギリスのお菓子と本の旅』  北野 佐久子著 二見書房

写真も豊富で内容もゆたか。                                               アガサ・クリスティーを訪ねる世界が、ますます楽しくなること請け合いです。

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