煌めく個性の競演 忘れえぬ女性たち

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アガサ・クリスティーの作品のなかで、キラ星のように煌めく個性を持った女性たちがいます。その一作品しか登場しないのに、心に深く刻まれ、忘れることができません。素敵な女性たちが活躍する作品を、紹介したいと思います。

元気な女の子のが活躍する作品は、別の記事で紹介しています。                              詳しくはこちらアガサ・クリスティーのおきゃんな女の子作品 ピックアップ5選

忘れえぬ女性たちの紹介 6作品

1『チムニーズ館の秘密』**美しい名前と利発な性格を持つ女性**1925年

おすすめポイント

 上流階級の夫人「ヴァージニア・レヴェル」は美しい名前と明晰な頭脳を持った、容姿も美しい人。ひょんなことから、殺人事件に巻き込まれ自身もピンチになってしまいます。彼女がどのようにピンチを抜け出していくのか、ハラハラドキドキです。おきゃんな女の子にも近いヴァージニアの魅力に、引き込まれます。

2『青列車の秘密』**そのまなざしの中に見るものは**1928年

おすすめポイント

 アガサ・クリスティー自身は、つらい時期に書かなければいけなかったこの作品は、嫌いだといっています。けれど、だからこそこの「キャサリン・グレイ」が生まれたのかもしれません。ここに登場する「キャザリン・グレイ」の美しい描写は、魅力的です。おきゃんな女の子たちと、対局にいるようなひとです。物静かで、思慮深い。その美しい瞳が見つめるものは、真実です。

3『杉の柩』**エノリアの秘めたる思い**1940年

おすすめポイント

 プライドの高いエノリアは、自分の感情を素直に出すことができない。恋人の心変わりがあっても、冷静さを失わないよう装います。はじめは、あまり理解できないし、好きにもなれなかったヒロインですが、徐々に、エノリアを理解できるようになりました。このようにしか生きられない強さと悲しさを感じます。

4『ホロー荘の殺人』**これぞ、煌めく個性の女性たち**1946年

おすすめポイント

 大人の物語になっています。一人の男性を取り巻き、そこに登場する女性たちは皆、個性的でカラフルです。芸術家で自立した女性のヘンリエッタ、良家の出でも食べていくために働かなくてはならないミッジ、不思議ちゃんの女主人、美惑の塊の女優さん、一人では何もできない、その男性の妻ガーダ、これらの登場人物が縦糸、横糸となって、物語を織り上げていきます

5『パディントン発4時50分』**ルーシー・アイルスバロウとは**1957年

おすすめポイント

 オックスフォード大学の才媛ルーシーは、独自に道を切り拓いていく自立した女性です。おきゃんな女の子とはまた違った、大人の女性落着きと知恵を身に着けている人です。ミス・マープルから託された難題をどのように、クリアしていくのかが鍵となっています。

6『終わりなき夜に生れつく』**エリーのはかなさが心に残り続ける

ここに登場するエリーは、他の作品のヒロインと違います。考えてみると、アガサの作品のなかで極めて異色唯一無二の存在かもしれません。おきゃんな女の子も、自立し凛とした女性も、アガサのお気に入りのキャラクターでした。けれど、エリーは、違います。でも、エリーは、弱いのではありません。この作品を読んだ後、皆さんはどう思われるでしょうか? 

アガサ・クリスティーの生み出す人物像

 アガサ・クリスティーの描く人物像は”似たような人が登場する”と、ちょっと批判的に言われます。確かに分類すれば、このタイプ、こちらのタイプと分けることができますし、極めて似たタイプの登場人物がいるのも確かです。けれど、ご紹介した作品のように、その作品に登場するだけだけれど、知らない間に読者の心に入り込み、忘れがたい存在として残り続ける登場人物もいます。

 特に女性たちの輝きは特別です。2度の大戦をくぐり抜け勝利したイギリスですが、社会の仕組みが大きく変わり、女性たちは工場や、会社ではたらき始めます。彼女たちの考え方や生き方が変わっていくありようを、アガサは、敏感に感じ取っているのです。自らも看護婦や、薬剤師として働いたり、働きながら戦禍のなか執筆活動をつづけたり、そのような経験も生きているのでしょう。時代や、国はちがっても、その彼女たちのきらめきを感じることができるのも、アガサ・クリスティーの良さだと思います。

 

ヒロインにはなれなかったけど

 ヒロインにはなれなかったけれど、忘れがたい登場人物がいます。その2作品の紹介です。

『アクロイド殺し』**ミス・マープルの原型**

 この作品に登場するキャロラインです。家にいながらにして、村のあらゆる情報に通じている彼女は、弟のシェパード医師もおそれる女傑です。しかしその一方、思いやり深い部分もあり、ポアロも優しく、敬意をもって接します。このキャロラインが、後のミス・マープルを生み出すきっかけのとき、参考になった登場人物とアガサも述懐しています。

『メソポタミアの殺人』**知人の奥様**

 この作品に登場するのは、美女ルイーズです。「美女ルイーズ」とまわりから呼ばれているのですから、たいそう美しい人なのでしょう。しかし、前述の『チムニーズ館の秘密』のヴァージニアと全然違う人です。彼女をよく思わない人から、なんと、オセロに登場する悪役イアーゴに例えられてしまいます。まあ、ちょっと言い過ぎの感はありますが、自分のそばにこんな人がいたら、めっちゃ疲れるとおもいます。この登場人物が面白いのは、実在する人がいること。アガサはちゃっかり登場させていますが、周りの人々は、彼女にバレやしないかひやひやしたそうです。幸いにも、ご本人は自分のことだと気が付かなかったとのこと。めでたし、めでたし。

まとめ

ビクトリアの時代は、子供はいい子であることを望まれていましたし、女性は、男性に尽くすことを求められていました。『不思議の国のアリス』は、そんないい子を打ち破るパワーを秘めたアリスを登場させ、アガサは、おきゃんな女の子を活躍させています。また、女性も精神的に独立し自分の考えを持った女性たちを好ましく描いています。世の中の考え方や、ありようは随分と変わりましたが、今読んでも、彼女たちの活躍には引きつけられ、胸躍るものがあります。彼女たちは、キラ星のように輝いているのです。

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