アガサ・クリスティーは、元気な女の子を、描くのが上手です。 あの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』のヒロイン「アリス」にも似た、好奇心旺盛の元気な女の子たちを登場させ大活躍させる作品が幾つかあります。 『そして誰もいなくなった』や『オリエント急行の殺人』『ナイルに死す』など、シリアスなイメージが強いアガサ・クリスティーですが、別の魅力を味わえる5作品を紹介したいと思います。
楽しい作品ばかりです。 読んで元気をもらえます。
おきゃんな女の子に出会える作品ピックアップ5選
1『秘密機関』1922年
あらすじ
幼馴染のトミーとタペンス。久しぶりに再会し、お金のないことをぼやき合っているうち ひょうんなことから、冒険探偵団を結成する。 すると、タイミングよく事件の依頼が舞い込むが・・・
おすすめポイント
冒険ミステリーです。この感じ100年以上前ね、って思えるところもあります。 けれど、読み進めるうちに、トミーとタペンスが好きになり、その魅力にはまっていく。 トミ・タペは、シリーズになっています。 タペンスは、アガサ・クリスティーの作品に登場する、おきゃんな女の子の代表です。 トミーとタペンスのシリーズは実年齢に即しているので、最初の作品は「二人合わせても、45にもならなかった」のが、最後の作品では、70歳を超えています。 年齢を重なっていっても、タペンスの好奇心旺盛で、元気いっぱいなところはかわりません。
タペンス評でとても好きな文章があります。引用させていただきます。
『アガサ・クリスティーの誘惑』 芳野 昌之著 早川書房
トミーとタペンスの物語は『タペンス自身の物語、つまり「女の一生」なのである。』 『侘しく悲劇的な古典的「女の一生」に比べると、一人の女流作家のほとんど全生涯にわたる長い歳月をかけて書きつがれた「タペンスの生涯」は、なんと輝きと慰めに満ちた物語であろうか。』
本当にそのとうりだと思います。
2『茶色い服の男』1924年
あらすじ
考古学者だった父を亡くし、わずかばかりのお金を持ってロンドンに来たとところ、事故に巻き込まれる。プラットフォームからの転落事故を目撃してしまうのだ。 何かおかしいと、アン・ベディングフェルドは、事件を追いかけだす。
おすすめポイント
なんといってもアンのその行動力。 ちょっと笑えちゃう。 アンの周り登場する人々も、一癖も二癖もありそうな面白い人たちばかり。 冒険あり、ロマンスありで、船にも乗り、どこまでいくんじゃー感ありの盛沢山。 おきゃんな女の子たちの代表がタペンスだとすると、おきゃん度NO.1はこの子。 素晴らしい行動力、恐れ知らず。温かい目で見てほしい。
3『七つの時計』1929年
あらすじ
チムニーズ館に滞在中の若い外交員が、謎の死をとげた。不思議なことに、その部屋の暖炉の上に時計が七つ置かれていた。それが意味することは何なのか? バンドルと呼ばれている、レディが謎を追いかけ大活躍する。
おすすめポイント
この作品は『チムニーズ館の秘密』の続編。 けれども、内容は全く違ったものになっています。 『チムニーズ館の秘密』の時にちょい役だった、アイリーンあだ名は”バンドル”が活躍する冒険ミステリーです。 話の内容や主人公は変わっても、個性豊かな脇役の人たちは、相変わらずの登場で、いい味だしています。 「チムニーズ館」は、イギリスの重要な位置を占め、歴史的な会議が行われてきた城館です。 バンドルはそんなお屋敷のお嬢さま。 正真正銘のレディ。 けれど、持前の行動力で事件に飛び込んで行きます。 バンドルとパパである、”ケイタラム卿”との会話が絶品です。
4『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』1934年
あらすじ
幼馴染のボビィとフランキー、偶然ロンドンから、ウェールズに帰る途中の電車に乗り合わせた。 幼馴染といっても、ボビィは、教会の牧師の息子であり、フランキーは「お城のお嬢様」 たまたまゴルフをしていたボビィが、がけから転落した人救助した。 その男性は、亡くなってしまったが、その後、ボビィの周りで不可解なことがおこる。 その話を聞くと、フランキーは謎を解こうと、二人で事件を追うことになる。
おすすめポイント
この作品は、トミーとタペンスの『秘密機関』と『NかMか』の間に書かれていて、二人の様子もトミ・タペによく似ています。 違いは、フランキーがバンドルと同じようにレディということ。 言わば身分違い。 二人は仲良しで、お互いを思う気持ちもあるんだけどね。 それぞれに、恋のライバルも出現し、ミステリーの行方も、二人の恋の行方も、エヴァンズってだれよってのも気になって、読んでる方は、ハラハラドキドキです。
5『蜘蛛の巣』戯曲 1956年
あらすじ
空想好きで、お茶目な若妻クラリサの前に突如あらわれた、死体!?クラリサ絶体絶命のピンチ。なぜ、どうしてこうなるの?このピンチ乗り越えられるか?
おすすめポイント
この主人公名前はクラリサ。女の子ではないんだけど、若妻なので、ここに入れてほしいな。 なぜなら、やっぱりおきゃんなんです。 しかも、名前がクラリサ。 このブログの名前ここからとっています。 知っている方も多いと思いますが、アガサ・クリスティーは、「アガサ・メアリ・クラリッサ・ミラー」と名付けられました。(ミドルネームは祖母と母からとっている) なので、この主人公は、アガサの分身とも言えます。 よく作品に登場する作家オリヴァ夫人が、アガサがモデルになっていることは、知られた話ですが、このクラリサも若かりし頃のアガサの内に秘めた分身なのです。
追加
『シタフォードの秘密』 この作品に登場する女の子は、おきゃんというほどでもないのですが、恋人の無実を晴らそうと奮闘するので、ちょこっとご紹介です。
アガサ・クリスティーの作品と『アリス』に共通する少女像
おきゃんな女の子たちの魅力
アガサ・クリスティーが小さいころから愛読し、作品にもたびたびそのフレーズを使っている、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』のヒロイン「アリス」にも似た おきゃんな女の子が登場する作品があります。
好奇心旺盛で、勇気や知恵で不条理な世界を切り抜けていく「アリス」。 また、アガサのヒロインたちも、元気で好奇心旺盛で事件に突入していきます。
その魅力を一言で表すとパワーかな?と思います。 ちょっと、ちょっとと思うこともあるのだけれど。 持前の明るさ、聡明さ、でピンチを乗り切っていきます。
アガサ・クリスティーの内に見る「アリス」像
アガサの内に見るおきゃん性
アガサ・クリスティーの内気は有名です。 1962年の《ねずみとり》10周年記念パーティに出席するためにでかけたところ、パーティ会場の入り口で「関係者以外立ち入り禁止です」とホテルの従業員に言われ、自分がアガサ・クリスティーであると言えず、入り口でエージェントのアシストが来るまでウロウロして困っていたという、私の好きな、ちょっとかわいらしいエピソードが残っているくらいです。 けれど、自伝や、アガサ・クリスティーのについて、書かれたものを読むと、決しておとなしいだけの人ではないことがわかります。 なんと、おきゃんなのです。 想像力豊かで、感受性が強いことは容易に想像できますが、お友達ができれば、一緒にいたずらもするし、ローラースケートや泳ぐことは大人になってからも好きで、サーフィンなんかもしています。 アーチーと離婚した後、傷心旅行とはいえ、女一人中東の発掘現場まででかけていったり、2番目の夫マックスが一緒とはいえ、みんなが止めるのにも関わらず、当時安全では決してなかったロシア経由でイギリスに戻ったり。その他いろいろ。 いやいや、結構度胸がありますよ。 もしかしたら、若いころのアガサの、内なるところは、アンに一番似てるかも。
まとめ
まだ読んでない方は、ぜひ読んでみてほしいです。 こんなアガサ・クリスティーもいいと思います。
たまには、こんな子たちに出会って、おきゃんな世界を旅するのもいいですよね。 実際周りにいるかな? こんなおきゃんな女の子たち?
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