アガサ・クリスティーのクラリサベスト10

クラリサベスト10

クラリサがお勧めするアガサ・クリスティーの10作品をご紹介します。               面白い作品ばかりです。

                                                 アガサ・クリスティーのファンとしては、ゆっくり、じっくりアガサ・クリスティーの作品に向き合ってほしいと思っています。                                             けれど、面白い作品だけを読みたい方もいると思いますし、その気持ちもわかります。                          悩み悩みの10作品を選ばせてもらいました。

                                                                                                      参考になれば嬉しいです。

                                                                今回は長編のみにさせていただきます。                            また、超有名作品4選を除きます。                               出来れば『スタイルズ荘の怪事件』を読んでおいていただきたいかなと思います。                              またメアリ・ウエストマッコトの作品やポアロ最後の事件『カーテン』は番外編とさせて頂きます。

順位無しで10作品だけ並べてみました

                                                                        ここでは、だれが読んでも面白い、また評価も高い作品ピックアップしてあります。                               どれも読みやすい作品です。

                                                              ただ『NかMか』は、トミーとタペンスのシリーズの2作目なので、できれば、『秘密機関』か、短編集『おしどり探偵』を読んでから、手に取って貰いたいです。                          もちろんそのまま読んでも、十分話はつながります

楽しんでいただければと思います。

この他にも魅力的な作品が沢山あります。                             気の向いた方は、ぜひ他の作品にもチャレンジしてみてください。

『ABC殺人事件』 1936年

ポアロに挑むABCとは (ポアロ) 

あらすじ

 エルキュール・ポアロのもとに、”ABC”と名乗る人物から犯行予告と思われる手紙が送られてきた。ただのいたずらだと、周囲の人たちは問題にしなかったが、ポアロは不安を感じていた。      そして、ポアロの不安が的中し、予告どうりに殺人事件がおきてしまう。                             皆が動揺している中、再び”ABC“から犯行予告の手紙が舞い込んだ。               犯行はA、B、Cとアルファベット順に被害者を選んでいることがわかったが、その共通点もみつからず、互いに関係も見いだせない。                                      事件は続けてB,Cと起こってしまう。                                                                       もうこれ以上被害者をだしてはいけないと、焦るポアロとヘイスティングズ。               事件関係者と協力しながら犯人に挑む。                                      はたして、事件を解決することが、出来るのか?

おすすめポイント

ポアロもヘイスティングズ大尉も、ジャップ警部も登場 その疾走感 

1930年代、1940年は、多作で、後世に伝えられていく傑作が次々と生まれていく時期ですが、この『ABC殺人事件』も、非常に面白い作品になっています。

 ヘイスティングズ大尉も登場し、またジャップ警部もお目見えし、これぞポアロものという感じです。                                                    ABCという、アルファベット順におこる事件を語るヘイスティングズ大尉の手記と、3人称で語られるある人物の行動が読者の前に展開され、誘導されていきます。                                  犯行予告の手紙が舞い込み、その都度予告された場所で事件が起こっていくので、さすがのポアロも椅子に座って灰色の脳細胞だけで事件を解くこともできず、あちらこちらに駆けつけていきます。                                             ポアロには珍しく行動的で、疾走感があり、とても新鮮に感じます。

                                                               

ちょいたしコラム

アガサクリスティーの作品に出てくる町や村は、すべて実在するわけではなく、アガサの創造した町や村もあります。                                        有名なのは、ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村などです。              しかし、この作品に出てくる場所は、実在しています。                          また、ABC鉄道案内はじっさいによく使われていたそうです。

登場人物も多彩で、小さなたばこやを営む老夫人、カフェに勤める若い女の子、そして大きなお屋敷の貴族まで登場します。                                                    それぞれの生活の描写が、当時のイギリスの階級社会をよく表しています。                 また、脇から登場する人物も戦争後遺症を患っている様子とか、社会の様子を実によく描いています。 

   そのような面からも興味の持てる作品です。

『白昼の悪魔』 1941年

日の当たる場所にも悪はあり (ポアロ) 

あらすじ

  避暑地として人気の高いスマグラーズ島、そこに休暇を楽しむポアロの姿が。             滞在客のなかに女優アリーナ・マーシャルとその夫、義理の娘もいた。              やがて、新婚なのにアリーナの魅力にひかれていく男性と、苦悩するその妻。            ただならぬ気配が漂うなか、悪の存在を呟く牧師いる。                                彼の言葉が予言したかのように殺人事件がおこってしまう。                                             島にいる限られた滞在客、そしてそれぞれがもつアリバイ。                    果たしてポアロはこの事件の真相に辿り着けるのか。

 おすすめポイント

夏の日差し、海、小島、そしてミステリー

 傑作です。面白い事間違いなしです。

夏、バカンスに大勢が訪れる島、海で泳ぎ、ボートに乗り、テニスをし、日陰に座ってスケッチを楽しむ。                                                     そんなスマグラーズ島に滞在していたのは、まわりを巻き込んでいくすごい美女、そのおとなしい旦那さん、思いっきりイケメンの若い男性と、弱々しくきゃしゃな妻、思春期の揺れる心をもつ女の子、ちょっとこわい牧師さん、ゆかいなアメリカのご夫婦、たくましい女性、成功した魅力あふれる女性、そしてポアロ。                                 旅先だからこそ、人間関係が狭く密になってしまうところに、殺人事件がおこります。                                 島の情景やホテルの雰囲気も、よくあらわされており、リゾート気分満載です。                                         

 ちょいたしコラム

 『そして誰もいなくなった』のところでも紹介したバー島は、この『白昼の悪魔』の舞台となっていることでも有名です。                                     この島にある〔バーアイランドホテル〕はクリスティも何度も、泊まったことがあるそうです。 この島を、アガサがよく知っているから、ますます、その雰囲気がつたわるのだと思います。       

 アガサ・クリスティーのファンとしては一回は訪れてみたい場所の一つですね

ちなみにクラリサがアガサ・クリスティーを始めて読んだのが、この『白昼の悪魔』です。     思い出深い作品になっています。

さらにちょいたし

 出版の年代を見ていただくとわかることですが、この1941年は、戦争のまっただなかです。   そんなことを全く感じさせない内容です。                                   アガサ自身も、ロンドンで、篤志薬剤師として週3日ほど働いていましたし、ナチスドイツによる、ロンドン大空襲があったころでもあります。                         周りに爆弾が落ちてくる中、マックスは不在で一人ロンドンのフラットで生活していていました。「やることもないので、集中して作品を書くことができた」、と語っているのには恐れ入ります。

『五匹子豚』 1942年

さあ、過去への旅を (ポアロ)  

あらすじ

 ある日ポアロのもとに若い女性の訪問客があった。                      事件の依頼だが、事件は16年も前のことで、すでに解決済みであった。           ししかし依頼者はその事件の犯人の娘で、彼女の母の無実を証明してほしいというのだ。       戸惑うポアロ。                                       しかし熱心な娘の願いを聞き入れ、たとえどのような結果がでても覚悟するように説得し、調査に乗り出す。                                            当時関係のあった人々を訪問し話を聞いていくポアロ。                       だが彼女の母の有罪はさらに確定的なものになっていきポアロの表情は暗く沈んでいく。         16年も前の事件になにか新しい発見ができるのか。                         灰色の脳細胞が活発に動き出す。

おすすめポイント

ポアロの能力がその輝きをみせる

 クリスティ全作品のなかで最もおすすめしたい作品です。   

                                                                関係者の人々は、ポアロと話しているうちに、当時起こった事柄について、さらにそのときの自身の心の揺らぎまで思いだしていきます。                                 アガサの筆は最高に冴えわたって、そこに登場してくる人々の息遣いが、読んでいるこちらまで聞こえてくるようです。                                      目の前に、ハッキリと彼らが歩き、笑い、怒り、苦悩する姿がみえてくるのです。            それだけでなく、彼らを取り巻くその空気感、夏、冷たいビール、陽射し、林の中を歩いている姿、木々の葉のそよぎや、ジャスミンの花の匂いまで、読んでいるこちらの肌をとうして感じられるようです。

ちょいたしコラム

この作品は、ある時期まで、それ程評価が高い作品ではありませんでした。             近年とみに評価が上がってきている作品です。                          その理由は、ミステリーの批評家が、高く評価したこともありますが、時代が移って、読者のレベルが高くなったことも、あるでしょう。                                 昔はよくできた、小作品と言われていたこの作品が、ようやく実力どうりの、傑作と言われるようになりました。喜ばしいかぎりです。

さらにちょいたし

 クリスティの作品のなかには、マザーグースを題材にした作品がいくつかありますが、この『五匹の子豚』もそうです。                                     その他には『愛国殺人』(ポアロシリーズ)『ポケットにライ麦を』(ミス・マープル)『そして誰もいなくなった』『ねじれた家』(ノンシリーズ)があり、ほかにもいろいろな場面や会話で使われています。

『動く指』 1942年

ミス・マープルはなかなか登場しないけど  (ミス・マープル)

あらすじ

   戦争で足を負傷した若い軍人バートンは、傷の療養のためにリムストック村のリトル・ファーズ邸を借り、妹ジョアナとともに移り住んできた。                          穏やかな田舎暮らしができると思いきや、二人のもとに匿名の手紙が送られてきた。         そこに書かれていたのは、真実とはほど遠い内容のものだった。                  その手紙は二人のところだけではなく、多くの村人たちにも送り手られていた。          やがてそれが不幸な事件を生む。                                村の牧師夫人は、友人のミス・マープルに助けを求めた。                        彼女の深い洞察力が事件の糸口を見出していく。

おすすポめイント

ミステリーの隠し味にちょっとしたロマンスを

 この作品ではミス・マープルの出番はどちらかというと少なめです。              ただ語りのバートンとジョアナが、匿名の手紙が出回る村において、良識的で明るい雰囲気を作ってくれています。                                         ほんのりとロマンスの香りもあり、楽しく読める作品になってます。                私のお気に入りの作品の一つです。                              ちなみに、アガサ・クリスティー自身の好きな作品のベスト10のなかにこの『動く指』を選んでいるそうです。『アガサ・クリスティー99の謎 早川書房編集部-編』ハヤカワ文庫より

ちょいたしコラム

 アガサ・クリスティーは、作品のなかにほんのりとしたロマンスを入れるのが得意です。     ロマンスはちょっと苦手だという方もいると思いますが、ご安心ください。              かのレジェンド江戸川乱歩が”通俗恋愛小説嫌いな私にも、十分楽しめる程度に気の利いたものなのである。”と記しています。(『アガサ・クリスティー読本』H・R・Fキーティング他著 早川書房)

『ポケットにライ麦を』 1953年

ミス・マープルを憤然と立ち上がらせた事件 (ミス・マープル)

あらすじ

 投資信託会社の社長で資産家のレックス・フォテスキュー氏は、ある朝会社で、秘書のミス・グローブナーの入れたお茶を飲むと、突然苦しみだした。                         「お茶が、いったい何を、君は」といって倒れてしまう。                     病院で死亡が確認されたが、毒による死亡だったことが判明する。                しかも不可解なことに、フォテスキュー氏の上着のポケットにライ麦がいっぱい入っていた。         これはなにを指し示すのか。                                    マザーグースの調べにのって次々と起こる事件にミス・マープルが敢然と立ち向かう。

おすすめポイント

正義のヒロインが誕生するとき

 ミス・マープルのシリーズのなかでも傑作中の傑作です。

ミス・マープルは、強い決意のもとに、事件解決のために立ち上がります。             正義のヒロインの登場です。                                                                  あまり予備知識を入れる事無く読んでいただきたいです。                                                        読後は胸に深く迫るものがあります。

ちょいたしコラム

 ポアロシリーズの『五匹の子豚』のところでも触れましたが、この作品もマザーグースを題材にしています。 「六ペンスのうたをうたおう」です。                                                         『そして誰もいなくなった』と同じように歌詞に合わせて事件が展開していきます。                              話はそれますが、エラリークイーンの作品『フランス白粉の謎』でも第一の挿話にマザーグーズの”六ペンスのうたをうたおう”が使われています。

さらにちょいたし

 この事件の被害者レノックス・フォテスキュー氏の邸宅水松荘を訪ねた時の、ニール警部の生い立ちの回想部分イギリスの社会をえぐっています。                       アガサ・クリスティーは、労働者階級の貧しい生活を、ニール警部に語らせています。     ニールの苦々しい思いを、読者も知ることによって、そこに事件を解決するためだけに、ただの警察官として存在するだけではなく血肉のかよった、人間としてニール警部が、読者の前に登場します。                                                           そのような人物が、ミス・マープルと出会い、事件解決へともに協力するようになる。      何気ない記述から、物語に深みをもたらしていると思います。                                 それゆえ、事件解決によってもたらされる更なる思いが、読者の胸にこみ上げてくるのでしょう。                  

『鏡は横にひび割れて』 1962年

事件の底に流れている真相とは (ミス・マープル)

あらすじ

 ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村も、今や時代の流れにのまれ、バントリー大佐夫妻が住んでいたゴシントンホールも、映画女優のマリーナとその夫が住んでいる。           ある日、彼女らが開いたお披露目パーティーで、招待客の女性が殺害されてしまう。            果たして、犯人が狙ったのは、マリーナではなかったのか?事件は次第に深い闇の中へ。       ミス・マープルが、悲しい調べにのった事件を紐解いていく。

おすすめポイント

何層にも重なった悲しみ

 この物語は、初めは気が付かないのですが、次第に、悲しい調べが耳に届いてきて切なく心に響きます。                                          ミス・マープルの、凛とした姿と、最後の悲しみを静かに受け止める態度に感銘を受けます。

全体的に悲しい色調ではありますが、ゴシントンホールの以前の住人バントリー夫人や『パディントン発4時50分』でもお馴染みのクラドッグ警部などが顔を見せてくれてホッとします。

ちょいたしコラム

 セント・メアリ・ミード村の地図は『牧師館の殺人』についていますが、この『鏡は横にひび割れて』の頃のセント・メアリ・ミード村の地図を『ミステリマップ 名探偵たちの足あと』(早川書房)に掲載せれています。                               その変化が興味深いです。

『NかMか』 1941年

トミーとタペンスシリーズ二作目 スパイはだれ? (トミーとタペンス)

あらすじ

 第二次世界大戦中のトミーとタペンスは、イギリスのために何かしたいという思いから、仕事を探しているがなかなか道からず、気落ちしている様子。                                           しかし、むかしの、情報部の上司の知り合いというグラント氏がやってきた。                                          ドイツのスパイである、NかMをトミーに探し出してほしいというのだ。                   そこでトミーは、スパイが潜んでいるはずだという、高級下宿「無夢荘」一人で乗り込んでいく。                     そこにはすでに、何人かの人々が滞在していた。                         このなかにドイツのスパイがいるのか?トミーは探し出すことができるのか?             

おすすめポイント

 魅力を増す二人

 トミーとタペンスのシリーズ最高傑作と言われています。                     タペンスもトミーも相変わらずですが、『秘密機関』より年齢を重ね、その分味わい深くなっています。                                              謎解きは存在しますが、もちろんポアロとは趣が違った作品です。                   いわゆる冒険ミステリーです。                                  第二次世界大戦を背景にした物語であること、その下宿にドイツから亡命してきた科学者の青年がいることなど複雑な様相を呈しています。                             その結末はさすがアガサ・クリスティー。                           予想外の驚きが待っています。

ちょいたしコラム

 戦争中の物語になっています。                                  ドイツのスパイを探し出せとか、この背景、物語の設定が嫌いな人は、無理かもしれません。    ただ、そこは、アガサ・クリスティーたるもので、戦場や残酷な描写などはありません。                               作品のなかで、タペンスの口を借りてアガサが、戦争について語るところは、深く考えさせられるものがあります。

                                                 今なお世界中で戦争がなくならない状況ですが、戦争のない、平和な世界になってほしいと切に願います。

『ゼロ時間へ』 1944年

0時間へと向かっていくその到達点とは (ノンシリーズ)

あらすじ

 部屋で、一人殺人計画を練っている人物。                            その恐ろしい地点へ向かって時が進んでいく。                         殺人という物語の結末「ゼロ時間」だ。                                        誰が何のために、そしてその方法と目的とは?                         あの『チムニーズ館の秘密』や『ひらいたトランプ』などの事件の名脇役のバトル警視が、登場する。                                          バトル警視の腕前はいかに、その力が試される。

おすすめポイント

物事が始まる前の秒読みのように、殺人を0時間として、そこに、だれが被害者で、だれが犯人であるかわからない不気味さを含みながら、物語は否応なく結末に向かって進んでいきます。                 いるはずの犯人が、誰だかわからないもどかしさ、その驚愕の結末。                   アガサ・クリスティーならではの作品ではないかと思います。

ちょいたしコラム

 バトル警視は、アガサの作品のなかで、5作品に登場しています。               『チムニーズ館の秘密』と『七つの時計』と『殺人は容易だ』。                『ひらいたトランプ』はポアロと一緒に事件を追います。                    今回の『ゼロ時間へ』はポアロは登場しませんが、「なぜ、いまポアロを思い出したんだろう」とバトル警視が、事件の謎を解くきっかけになっています。                      また、いままでは、バトル警視の、プライベートなことはでてきませんでしたが、この作品のながで、触れられています。                                     良き父親でもあることも、わかります。                             また、この作品の舞台のソルトクリークは、デヴォンのサルコムと言われています。          地形がとても似ているようです。

さらにちょいたし

アガサ・クリスティーを読むとき、いくらファンであっても、気にかかってしまう言葉や展開があります。

この作品でも、最初にでてくる犯人の設定が、普通の精神状態でないことを、示しています。           アガサが設定した犯人に時折みられる特徴です。                       特に後年になって、多く見られるようになります。                                          後年犯罪を犯す心理として興味を待っていた部分なのかもしれません。                                              特に遺伝的に、精神の病気のことを語られる部分などは、今の時代においては、心に引っかかるものがある方もいるでしょう。                                            やはり、100年以上前の人なので、その辺は限界があるかもしれないです。              これは、読んで考えてしまう問題かもしれません。                       他の作品にも、精神的な病気のことを語られる部分があり、その部分は、どうしても私は引っかかってしまいます。                                                         皆さんはいかか感じられるでしょうか?

『ねじれた家』 1949年

その家のなかにはどんな真実が隠されていたのか(ノンシリーズ)

あらすじ

 私、チャールズとその恋人ソフィアは、エジプトで知り合い、イギリスに帰国したら結婚の約束をしていた。                                            やがて、任務を終え帰国したチャールズは、ソフィアの祖父が殺されるという事件が起きたことを知らされる。                                         ソフィアを含め家族が容疑者となってしまい、結婚が遠のいてしまった二人。             そんな状況を打破しようと、チャールズが事件の謎に挑む。

おすすめポイント

ノンシリーズですが、映画にもなっているので、知っているかたは多いのではないかと思います。       相変わらずのびっくりの結末です。                              面白い作品ですが、ある有名な作品に似ていると、言われています。                             私はそちらの方を、先に読んでいたので、やはり思い出し比べてしまいました。                    アガサのこの作品を先に読んでいたら、また違った感想をもったかもしれません。

『終わりなき夜に生れつく』 1967年

全編に流れる悲しい調べ (ノンシリーズ)

あらすじ

ジプシーが丘の大きな木下で出会った、マイクとエリー。                       なんとなく、不吉な印象のするこの場所で生活をあらたに始める二人。                          二人の愛と若さが、そんな不吉さを、吹き飛ばしてくれるのかと思いきや、二人の思いに反して、どんどん暗い影が二人をおおっていく。                                              その後、思わぬ事故が起こり、事態は急転直下していく。     

おすすめポイント

 なんと言っても、エリーのはかなさが、胸をうちます。                      だんだん真実が見えてくるにつれ、驚きと、悲しみとが、心に湧き上がってきます、もちろん怒りも。でも、この作品の一番の感想はと言われたら、やはり悲しみ、切ないです。

 アガサの作品のなかで、メアリー・ウエストマッコトの作品を除いて、『像は忘れない』や『鏡は横にひび割れて』など悲しみをまとった作品はありますが、この『終わりなき夜に生れつく』が一番切ない物語かもしれないです。

番外編 『春にして君を離れ』1944年

ミステリーではないけれど (メアリ・ウエストマッコト) 

あらすじ

 体を壊した娘を看病するために、バグダッドに出かけたジョーンは、帰国の道中、昔の同級生にあう。変わり果てた友人を哀れに思うジョーンだが、その友人から奇妙に心に引っかかることを言われる。                                                      たまたま、悪天候で足止めをされてしまったジョーンは、友人の言葉とともに自分の半生を振り返り始める。                                                       すると、今まで忙しい日常の中で気が付かなかったり、あまり深く考えなかった、一つ一つの物事が、別の意味をもちジョーンの目の前に現れてきた。                                     今まで自分の幸福を疑わなかったが・・・そうではなかったのか。

おすすめポイント

ミステリーではないけれど、ある意味では、ミステリーより怖い作品                                 

文学作品でも、ある意味ミステリーより怖い作品がありますよね

                                                               この作品は、自分で思い描いていた自分、または自分で感じていた自分が、他人の目から見たのと違っていたこと、また、物事のとらえかたも、他者とは違ったとらえ方になっているということに気が付いていく。                                       アガサの作品には、ひとは見かけどうりではないというアプローチがよくつかわれますが、逆に             自分も自分の思っているように、人は思われていない、物事も同じように感じ取れていない。それは、あたりまえのことなんだけれども、それがわかって行動や考えているひとと、このジョーンのように一人よがりになってしまう人。                                                        アガサの作品は癒しをくれると言われているけれども、決してそれだけではないことが、この作品や、メアリー・ウエストマッコトの他の作品からもわかるます。                           内気でシャイなアガサであり、幼少期の感受性の高さを示しているエピソードなどを読むと、人を観察し、その心のうちまでも、深く感じ取っていたことがわかります。                  

全くの個人の見解ですが、この作品の主人公のジェーンと、カズオ・イシグロの『わたしたちが孤児だったころ』の主人公を思い出します。クリストファーも、同級生と再会し昔の学生時代を懐かしむシーンで、同級生がクリストファーに対する感じ方と本人の感じ方が違っています。二人よく似たタイプのように思えます。

番外編 『カーテン』 

最後の事件 (ポアロ)

あらすじ

ポアロから手紙が来た。                                                    あのスタイルズ荘に滞在しているので、来ないかという誘いの手紙だった。                                偶然にも、ヘイスティングズ大尉の末っ子の娘も、滞在していた。                           懐かしいポアロと出会うと、喜びともに、時の移り変わりの悲しみも湧き上がる。                          そこにいたポアロは、やせて車いすに座っていたのだ。                                  心配するヘイスティングズ大尉に「体は衰えても、知能は衰えていない」と豪語するポアロ。                             実はこのスタイルズ荘に、今までにないほどの、凶悪な殺人犯がいるという。            また昔のように、一緒に事件を解こうと誘うポアロ。                                       ヘイスティングズ大尉の娘の不可解な行動も相まって、混乱していくヘイスティングズ。                       誰がポアロにいう凶悪な犯人で、事件はいかにして起こりうるのか?                            ポアロ最後の事件。

おすすめポイント

ポアロは最後まで、探偵として在り続ける

名作、傑作と言われる作品です。                                 ただポアロの長い間のファンにとっては、悲しい作品かもしれません。                 それでも、ポアロらしい最後なのでしょうか?                         アガサは、生前ポアロについて、なぜあんなキャラクターにしてしまったのだろう、みたいなことをいっています。                                    けれども、やはりポアロのことを一番理解していたのは、生みの親であるアガサだったのでしょう。                                                             かのシャーロック・ホームズは引退すると養蜂に取り組みました。                 たまにワトスン博士が訪ねてきて、それなりに充実した、時を過ごしていたでしょう。        エラリー・クイーン氏は、引退したお父様や、確か、奥様子供と一緒に生活し、作家業にもどり、楽しい日々を過ごしていたような。                                     一方ポアロは、カボチャの栽培に失敗し、のちの趣味は、探偵小説を読み、それを研究することでした。                                           探偵という天職から離れられない人だったのです。                        だからこそ、ポアロは最大の難敵と対峙し、その事件を解決することに、人生のすべてをささげたのでしょう。                                           その是非をめぐっても、ポアロの最後をみても、ただ傑作というだけでなく、重みをもった作品といえるでしょう。                                         ある程度ポアロものを読んでから、手に取ることをお勧めします。

まとめ

何作か読んで、そのシリーズが気になった方は、そちらも読むことをお勧めします。       アガサ・クリスティーは、100年近く前のひとです。                    めまぐるしく世の中が変わっていくなかで、物事のとらえ方、考え方、また世の中の常識とされていることでも、10年くらい前と今とでは変わっています。                       アガサの作品でも、この表現の仕方、考え方はどうなんだろうと思う部分はもちろんあります。 また逆に、100年たっても大して変わらない人間の気持ちなどに、驚かされます。           それらをあわせ、社会学としても、参考になるといわれているイギリス社会の変遷や、人々の生活などミステリー以外のところにも興味をもってもらえたら、よりアガサ・クリスティーを楽しく読むことができるのではないでしょうか。                             時分なりの読み方を発見していただけたら嬉しいです。

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