アガサクリスティーのクラリサベスト10

クラリサベスト10

クラリサがお勧めするアガサ・クリスティーの10作品をご紹介します。面白い作品ばかりです。

 アガサ・クリスティーのファンとしては、ゆっくり、じっくりアガサ・クリスティーの作品に向き合ってほしいと思っています。                                             けれど、面白い作品だけを読みたい方もいると思いますし、その気持ちもわかります。                          

ここでは、だれが読んでも面白い、また評価も高い作品ピックアップしてあります。                               どれも読みやすい作品です。

今回は長編のみにさせていただきます。また、超有名作品は除いています。メアリ・ウェストマコットの作品やポアロ最後の事件『カーテン』は番外編としています。

一般的な評価だけでなく、クラリサのお気に入りの作品も紹介しています。           詳しくはこちらアガサ・クリスティーお気に入りマイベスト10

                                                                                                                                       

『ABC殺人事件』 1936年

 *ポアロに挑むABCとは (ポアロ)* 

おすすめポイント

ポアロもヘイスティングズ大尉も、ジャップ警部も登場 その疾走感 

1930年代、1940年は、多作で、後世に伝えられていく傑作が次々と生まれていく時期ですが、この『ABC殺人事件』も、非常に面白い作品になっています。

 ヘイスティングズ大尉も登場し、またジャップ警部もお目見えし、これぞポアロものという感じです。                                                    ABCという、アルファベット順におこる事件を語るヘイスティングズ大尉の手記と、3人称で語られるある人物の行動が読者の前に展開され、誘導されていきます。                                  犯行予告の手紙が舞い込み、その都度予告された場所で事件が起こっていくので、さすがのポアロも椅子に座って灰色の脳細胞だけで事件を解くこともできず、あちらこちらに駆けつけていきます。                                             ポアロには珍しく行動的で、疾走感があり、とても新鮮に感じます。

登場人物も多彩で、小さなたばこやを営む老夫人、カフェに勤める若い女の子、そして大きなお屋敷の貴族まで登場します。                                                    それぞれの生活の描写が、当時のイギリスの階級社会をよく表しています。                 また、脇から登場する人物も戦争後遺症を患っている様子とか、社会の様子を実によく描いています。 

『白昼の悪魔』 1941年

日の当たる場所にも悪はあり (ポアロ)* 

 おすすめポイント

夏の日差し、海、小島、そしてミステリー

 傑作です。面白い事間違いなしです。

夏、バカンスに大勢が訪れる島、海で泳ぎ、ボートに乗り、テニスをし、日陰に座ってスケッチを楽しむ。                                                     そんなスマグラーズ島に滞在していたのは、まわりを巻き込んでいくすごい美女、そのおとなしい旦那さん、思いっきりイケメンの若い男性と、弱々しくきゃしゃな妻、思春期の揺れる心をもつ女の子、ちょっとこわい牧師さん、ゆかいなアメリカのご夫婦、たくましい女性、成功した魅力あふれる女性、そしてポアロ。                                 旅先だからこそ、人間関係が狭く密になってしまうところに、殺人事件がおこります。                                 島の情景やホテルの雰囲気も、よくあらわされており、リゾート気分満載です。                                         

 『そして誰もいなくなった』のところでも紹介したバー島は、この『白昼の悪魔』の舞台となっていることでも有名です。                                     この島にある〔バーアイランドホテル〕はクリスティも何度も、泊まったことがあるそうです。 この島を、アガサがよく知っているから、ますます、その雰囲気がつたわるのだと思います。       

 アガサ・クリスティーのファンとしては一回は訪れてみたい場所の一つですね。

 出版の年代を見ていただくとわかることですが、この1941年は、戦争のまっただなかです。   そんなことを全く感じさせない内容です。                                                            周りに爆弾が落ちてくる中、マックスは不在で一人ロンドンのフラットで生活していていました。「やることもないので、集中して作品を書くことができた」、と語っているのには恐れ入ります。

『五匹子豚』 1942年

さあ、過去への旅を (ポアロ)*

おすすめポイント

ポアロの能力がその輝きをみせる

 クリスティ全作品のなかで最もおすすめしたい作品です。   

                                                                関係者の人々は、ポアロと話しているうちに、当時起こった事柄について、さらにそのときの自身の心の揺らぎまで思いだしていきます。                                 アガサの筆は最高に冴えわたって、そこに登場してくる人々の息遣いが、読んでいるこちらまで聞こえてくるようです。                                      目の前に、ハッキリと彼らが歩き、笑い、怒り、苦悩する姿がみえてくるのです。            それだけでなく、彼らを取り巻くその空気感、夏、冷たいビール、陽射し、林の中を歩いている姿、木々の葉のそよぎや、ジャスミンの花の匂いまで、読んでいるこちらの肌をとうして感じられるようです。

この作品は、ある時期まで、それ程評価が高い作品ではありませんでした。             近年とみに評価が上がってきている作品です。                                                           昔はよくできた、小作品と言われていたこの作品が、ようやく実力どうりの、傑作と言われるようになりました。喜ばしいかぎりです。

 クリスティの作品のなかには、マザーグースを題材にした作品がいくつかありますが、この『五匹の子豚』もそうです。                                     その他には『愛国殺人』(ポアロシリーズ)『ポケットにライ麦を』(ミス・マープル)『そして誰もいなくなった』『ねじれた家』(ノンシリーズ)があり、ほかにもいろいろな場面や会話で使われています。

『動く指』 1942年

ミス・マープルはなかなか登場しないけど  (ミス・マープル)*

おすすポめイント

ミステリーの隠し味にちょっとしたロマンスを

 この作品ではミス・マープルの出番はどちらかというと少なめです。              ただ語りのバートンとジョアナが、匿名の手紙が出回る村において、良識的で明るい雰囲気を作ってくれています。                                         ほんのりとロマンスの香りもあり、楽しく読める作品になってます。                私のお気に入りの作品の一つです。                              ちなみに、アガサ・クリスティー自身の好きな作品のベスト10のなかにこの『動く指』を選んでいるそうです。『アガサ・クリスティー99の謎 早川書房編集部-編』ハヤカワ文庫より

 アガサ・クリスティーは、作品のなかにほんのりとしたロマンスを入れるのが得意です。     ロマンスはちょっと苦手だという方もいると思いますが、ご安心ください。              かのレジェンド江戸川乱歩が”通俗恋愛小説嫌いな私にも、十分楽しめる程度に気の利いたものなのである。”と記しています。(『アガサ・クリスティー読本』H・R・Fキーティング他著 早川書房)

『ポケットにライ麦を』 1953年

ミス・マープルを憤然と立ち上がらせた事件 (ミス・マープル)*

おすすめポイント

正義のヒロインが誕生するとき

 ミス・マープルのシリーズのなかでも傑作中の傑作です。

ミス・マープルは、強い決意のもとに、事件解決のために立ち上がります。             正義のヒロインの登場です。                                                                  あまり予備知識を入れる事無く読んでいただきたいです。                                                        読後は胸に深く迫るものがあります。

 ポアロシリーズの『五匹の子豚』のところでも触れましたが、この作品もマザーグースを題材にしています。 「六ペンスのうたをうたおう」です。                                                         『そして誰もいなくなった』と同じように歌詞に合わせて事件が展開していきます。                              

 この事件の被害者レノックス・フォテスキュー氏の邸宅水松荘を訪ねた時の、ニール警部の生い立ちの回想部分イギリスの社会をえぐっています。                       アガサ・クリスティーは、労働者階級の貧しい生活を、ニール警部に語らせています。     ニールの苦々しい思いを、読者も知ることによって、そこに事件を解決するためだけに、ただの警察官として存在するだけではなく血肉のかよった、人間としてニール警部が、読者の前に登場します。                                                           そのような人物が、ミス・マープルと出会い、事件解決へともに協力するようになる。      何気ない記述から、物語に深みをもたらしていると思います。                                                   

『鏡は横にひび割れて』 1962年

事件の底に流れている真相とは (ミス・マープル)*

おすすめポイント

何層にも重なった悲しみ

 初めは気が付かないのですが、次第に、悲しい調べが耳に届いてきて切なく心に響きます。                                          ミス・マープルの、凛とした姿と、最後の悲しみを静かに受け止める態度に感銘を受けます。

全体的に悲しい色調ではありますが、ゴシントンホールの以前の住人バントリー夫人や『パディントン発4時50分』でもお馴染みのクラドッグ警部などが顔を見せてくれてホッとします。

 セント・メアリ・ミード村の地図は『牧師館の殺人』についていますが、この『鏡は横にひび割れて』の頃のセント・メアリ・ミード村の地図を『ミステリマップ 名探偵たちの足あと』(早川書房)に掲載せれています。                               その変化が興味深いです。

『NかMか』 1941年

トミーとタペンスシリーズ二作目 スパイはだれ? (トミーとタペンス)*            

おすすめポイント

 魅力を増す二人

 トミーとタペンスのシリーズ最高傑作と言われています。                     タペンスもトミーも相変わらずですが、『秘密機関』より年齢を重ね、その分味わい深くなっています。                                              謎解きは存在しますが、もちろんポアロとは趣が違った作品です。                   いわゆる冒険ミステリーです。                                  第二次世界大戦を背景にした物語であること、その下宿にドイツから亡命してきた科学者の青年がいることなど複雑な様相を呈しています。                             その結末はさすがアガサ・クリスティー。予想外の驚きが待っています。                           

ちょいたしコラム

 戦争中の物語になっています。                                  ドイツのスパイを探し出せとか、この背景、物語の設定が嫌いな人は、無理かもしれません。    ただ、そこは、アガサ・クリスティーたるもので、戦場や残酷な描写などはありません。                               作品のなかで、タペンスの口を借りてアガサが、戦争について語るところは、深く考えさせられるものがあります。

『ゼロ時間へ』 1944年

0時間へと向かっていくその到達点とは (ノンシリーズ)*

おすすめポイント

何かが起こるとわかっている緊迫感

物事が始まる前の秒読みのように、殺人を0時間として、そこに、だれが被害者で、だれが犯人であるかわからない不気味さを含みながら、物語は否応なく結末に向かって進んでいきます。                 いるはずの犯人が、誰だかわからないもどかしさ、その驚愕の結末。                   アガサ・クリスティーならではの作品ではないかと思います。

 事件解決へと導くバトル警視は、アガサの作品のなかで、5作品に登場しています。               『チムニーズ館の秘密』と『七つの時計』と『殺人は容易だ』。                『ひらいたトランプ』はポアロと一緒に事件を追います。                    今回の『ゼロ時間へ』はポアロは登場しませんが、「なぜ、いまポアロを思い出したんだろう」とバトル警視が、事件の謎を解くきっかけになっています。                      また、いままでは、バトル警視の、プライベートなことはでてきませんでしたが、この作品のなかで、触れられ良き父親でもあることもわかりました。                             

『ねじれた家』 1949年

その家のなかにはどんな真実が隠されていたのか(ノンシリーズ)*

おすすめポイント

本当にねじれていたのは

ノンシリーズですが、映画にもなっているので、知っているかたは多いのではないかと思います。       相変わらずのびっくりの結末です。                              面白い作品ですが、ある有名な作品に似ていると、言われています。                             私はそちらの方を、先に読んでいたので、やはり思い出して、比べてしまいました。                    アガサのこの作品を先に読んでいたら、また違った感想をもったかもしれません。

『終わりなき夜に生れつく』 1967年

全編に流れる悲しい調べ (ノンシリーズ)*     

おすすめポイント

おきゃんな女の子と対照的な女の子の人生

 なんと言っても、エリーのはかなさが、胸をうちます。                      だんだん真実が見えてくるにつれ、驚きと、悲しみとが、心に湧き上がってきます、もちろん怒りも。でも、この作品の一番の感想はと言われたら、やはり悲しみ、切ないです。

 アガサの作品のなかで、メアリー・ウエストマコットの作品を除いて、『像は忘れない』や『鏡は横にひび割れて』など悲しみをまとった作品はありますが、この『終わりなき夜に生れつく』が一番切ない物語かもしれないです。

番外編 『春にして君を離れ』1944年

ミステリーではないけれど (メアリ・ウエストマコット)* 

おすすめポイント

ミステリーではないけれど、ある意味では、ミステリーより怖い作品                                 

文学作品でも、ある意味ミステリーより怖い作品がありますよね

                                                               この作品は、自分で思い描いていた自分、または自分で感じていた自分が、他人の目から見たのと違っていたこと、また、物事のとらえかたも、他者とは違ったとらえ方になっているということに気が付いていく。                                       アガサの作品には、ひとは見かけどうりではないというアプローチがよくつかわれますが、逆に             自分も自分の思っているように、人は思われていない、物事も同じように感じ取れていない。それは、あたりまえのことなんだけれども、それがわかって行動や考えているひとと、このジョーンのように一人よがりになってしまう人。                                                        アガサの作品は癒しをくれると言われているけれども、決してそれだけではないことが、この作品や、メアリー・ウエストマコットの他の作品からもわかるます。                           人を観察し、その心のうちまでも、深く感じ取っていたことがわかります。                 

番外編 『カーテン』 

最後の事件 (ポアロ)*

おすすめポイント

ポアロは最後まで、探偵として在り続ける

名作、傑作と言われる作品です。                                 ただポアロの長い間のファンにとっては、悲しい作品かもしれません。                 それでも、ポアロらしい最後なのでしょうか?                         アガサは、生前ポアロについて、なぜあんなキャラクターにしてしまったのだろう、みたいなことをいっています。けれども、やはりポアロのことを一番理解していたのは、生みの親であるアガサだったのでしょう。                                                             かのシャーロック・ホームズは引退すると養蜂に取り組みました。                 たまにワトスン博士が訪ねてきて、それなりに充実した、時を過ごしていたでしょう。        エラリー・クイーン氏は、引退したお父様や、確か、奥様子供と一緒に生活し、作家業にもどり、楽しい日々を過ごしていたような。                                     一方ポアロは、カボチャの栽培に失敗し、のちの趣味は、探偵小説を読み、それを研究することでした。探偵という天職から離れられない人だったのです。                        だからこそ、ポアロは最大の難敵と対峙し、その事件を解決することに、人生のすべてをささげたのでしょう。                                           その是非をめぐっても、ポアロの最後をみても、ただ傑作というだけでなく、重みをもった作品といえるでしょう。                                         ある程度ポアロものを読んでから、手に取ることをお勧めします。

まとめ  

アガサ・クリスティーは100年以上前の人です。めまぐるしく世の中は変わっていき、10年くらい前と今では、物事のとらえ方も違っているところがあります。アガサの作品でも、この表現の仕方、考え方はどうなんだろうと思える部分はもちろんあります。

また逆に、100年たっても変わらない人の気持ちなどに驚かされます。ベスト10を読んでまた、他の作品にも興味を持って頂けたら嬉しいです。

                                                     

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