大好きなトミーとタペンスの紹介です。ポアロ、ミス・マープルと同じくシリーズになっています。聞いたことないなあと、思われる方もいらっしゃるかもしれません。とても魅力的なのに、ポアロやミス・マープルに比べたら知名度は落ちてしまいます。けれど、アガサ・クリスティーをかなり読まれているかたは、この二人を大好きなかたが多いのではないでしょうか?その魅力を一緒に見てみませんか?
トミーとタペンスの魅力とは
トミーとタペンスはシリーズになっていますが、その作品数は少なく、長編4作、短編1作しかありません。作品の内容も本格ものとはちょっと違い、二人でわちゃわちゃ事件を追いかける冒険ミステリーと呼ばれてものになっています。
その作品が、なぜ人々を惹きつけるのか?それは、この二人の魅力につきます。アガサの生きた時代は、まだまだビクトリア気質が残っていて、ミス・マープルのことばにもたびたび現れるように”殿方”が大事で”殿方”中心でした。けれどこの二人は対等です。むしろ、タペンスにトミー引っ張られて事件に巻き込まれる展開も多々あります。タペンスは元気いっぱいの女の子ですが、嫌味がなく好感がもてます。そんなタペンスを支えるトミーもまた素敵なのです。
そして、ポアロやミス・マープルとの大きな違いは、二人が年齢をかさねていくことです。ポアロやミス・マープルが時間に対して超越的存在になってしまっているのに対して、トミーとタペンスは実年齢を重ねていきます。それぞれの年代の生活や悩みを如実に表しています。読者はそんな二人を身近に感じ、好感を持ち、寄り添いながら、ともに人生を歩んでいるような気がするのです。アガサが、トミーとタペンスをしばらく書かなかったら、ファンから”トミーとタペンスはどうしていますか?元気ですか?”と問い合わせかきたというエピソードも頷けます。
トミーとタペンス作品紹介
二人を主人公にした作品を紹介します。
1『秘密機関』1922年 **若さがはじける痛快劇**
トミーとタペンスのデビュー作です。久しぶりに出会った二人はお金のないことをなげきます。何とか現状を打破しよう考えついたのが、<青年冒険家商会>‼ ここから国家機密の情報文書紛失事件に巻き込まれ(飛び込んで?)いきます。二人は若く元気で、様々な困難を乗り越えていきます。二人に生涯尽くすアルバートもこの事件で知り合います。なんですかそれは?てきな展開もふたりの魅力でグイグイ惹きつけられていきます。
また、ハッピーエンドで終わるこの物語を、別の側面から見てみると、第一次世界大戦後のイギリスの若者たちの様子を知ることができます。お金がない、仕事がないと嘆く二人。当時の若者の置かれた状況がわかります。こういった時代背景を作品のなかに取り込むことでトミーとタペンスは、血肉のかよった存在となり、人々の胸に共感を呼び起こし、人気者になっていきます。
2『NかMか』1941年 **タペンスを通じてアガサの思いが伝わる**
トミーとタペンスは中年になっています。子どもたちも独立して、夫婦二人の生活が戻っています。そんな二人のもとへ情報部員のグラント氏が訪れます。トミーにナチス・ドイツの大物スパイを探り出せという、極秘任務を頼むためでした。この依頼を受けたトミーが向かうのは、スパイが潜んでいるかもしれないゲストハウス無憂荘(サン・スーン)です。この後の展開が秀逸。
『秘密機関』は第一次世界大戦後の二人を描いた作品でした。この作品は、第二次世界大戦真っ只中です。タペンスの口を借りてアガサの思いが語られ部分があります。私は、深く共感しました。皆さんはどうでしょう?是非作品をお読みください。
3『親指のうずき』1968年 **不思議な空間と世界観**
トミーとタペンスもいよいよ老年に差し掛かかっています。トミーの叔母さんを”老人ホームにお見舞いに行かなくちゃ”なんて話からはじまります。前2作と違って、社会的な変化と言うよりも、二人の身のまわりのことから事件は始まります。それがこれまでの作品とは変わっているところです。でも相変わらずタペンスの鋭い嗅覚は事件をかぎ分けて、その行動力で不可解な謎を追っていきます。
シェイクスピアの一節からとられた題名でもわかるように、この物語は、隠された邪悪を追っていきます。
4『運命の裏木戸』1973年 **懐かしい我が家**
事実上この作品が最後の執筆となりました。なんと驚くことに、アガサが83歳のときの作品です。この年アガサは心臓発作を起こし、創作活動にピリオドをうちました。この作品のなかでアガサは、人生のなかでも楽しい時を過ごした、思い出深い生家アッシュフィールドを存分に描いています。幼いころ遊んだおもちゃや本も登場します。ミステりーの作品としては、ん?と思う部分もありますが、トミーとタペンスのファンとしては、彼らがこの後も、幸せに暮していくのだろうということが感じとれて良いなあと思います。
5 短編集『おしどり探偵』1929年 **二人の様子を存分に堪能できる**
短編集の良さは、読みやすさですが、読者からするともう一つ。そのキャラクターの生活や様子がいろいろな事件を通じて垣間見れるのも魅力の一つではないでしょうか?この短編集もそんな感じです。さらにお楽しみがこの短編集にはもう一つ。トミーとタペンスが、様々な探偵の真似をして事件を解いていこうと、ちょっとマニアックな面もみせてくれます。推理小説ファンの二人。楽しいです。
二人の人生
初登場したときの年齢は、トミーとタペンスの二人の年齢をたしても45にならなかったとの記述からもわかるように、20代前半でした。最後の『運命の裏木戸』は70代になっています。このシリーズは、トミーとタペンスの半生を描いてもいるのです。二人は、2度の大戦を経験し、自分たちから飛び込んで行ったとはいえ、数々の苦難を乗り越え、ともに仲良く(もちろん、ときにはケンカをしても)人生を重ねていきます。アガサは、つらい思いを抱えながら離婚を経験しています。このトミーとタペンスは理想とする夫婦像だったのかもしれません。そんな二人に最後は、アガサが愛して止まない生家、アッシュフィールドにも似た住まいを彼らの終の棲家としてあたえました。この二人に対するアガサの思いも伝わってきます。
大事なアルバート
タペンスを支えてきたトミー。タペンスがどんどん突き進んでいくのを支えたり、ブレーキ役になったりと大忙し。常識的で落ち着いた、けれど勇気を持ち合わせているトミーは、タペンスにピッタリ。 でも、もう一人忘れてはいけない人物が。もちろんアルバートです。『秘密機関』で二人と出会いその後、探偵事務所の受付係になったり、従僕になります。一時結婚をして夫婦のもとをはなれますが、妻を亡くしたあと、二人のもとに戻ります。最初から最後までトミーとタペンスに協力し、二人を助けてくれます。ちょっと面白いキャラで、そこもまた魅力の一つでしょう。
まとめ
トミーとタペンスのシリーズは、冒険ミステリーではあるけれども、ただわちゃわちゃ走りまわっているのではなく、その時代の背景や、彼らのその年代ごとの喜び、悩みが描かれていて、読者も二人とともに人生を歩んでいくようです。アガサの丹念な筆運びが、彼らに血肉をかよわせ、二人の人生を応援したくなります。是非トミーとタペンスに、この機会に出会っていただきたいです。

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